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ロッキーVR 俺の名前は、亀田太尊。 分かってる。 なんかすげーボクシングしてそうな名前だな、とよく言われる。 30歳..

ロッキーVR

俺の名前は、亀田太尊。
分かってる。
なんかすげーボクシングしてそうな名前だな、とよく言われる。
30歳。夜の居酒屋バイトを週5で入れてる。
これといって取り柄も無い。
学生時代は何もしなかった。運動は苦手な方だ。
俺はバイトの帰り道、中古ゲーム屋に立ち寄った。

「ブイアール?」

リアル何とか言うやつだ。
顔に装着してリアルな映像を見る、最新の映像の…とか何かの。

(3900円か、よくわからないが安いのかな)

(まあ買ってみるか…暇つぶしにはなるか)

特にパッケージも読まずに手に取る。

《君もロッキーになってチャンピオンを目指そう!!》

〜動作問題無し(但しリアルに戻れない事有)〜

俺はコンビニで肉まんとコーラを買った。
家に着くと早速VRに電源を入れる。
気に入らなければまたすぐ売ればいいと機器を装着した。

「へえ…」

目の前にアメリカのボクシングジムの光景が広がる。

「すげーリアルだな」

当たり前だが、本当にそこにいるみたいな感覚になる。それがVRだ。
リングの隅で、うるさそうなジイさんが叫んでいた。

「どこへ行ってたロッキー!また練習サボりやがって」

(この人がトレーナーって事か)

「さっさとしろ、ジャブの練習からだ!」

目の前にサンドバッグがある。
色んなゲームをしてきた俺はすぐに分かった。

(なるほど最初はパンチの練習か、チュートリアルを順を追って進めるって感じかな?)

手を前に出すとサンドバッグが揺れる。

バスッ!

(へえ面白い)

3分間サンドバッグを叩くと、右上の数字が上がった。

(100$…ポイントかな?)

「さあ次はパンチングボールだ」

1分休憩を挟んで、次はパンチングボール。

(さっきは動かない物を殴って、今度は動く対象物か、少しずつ難しくなる感じなのか)

終わると合計350$、さっきよりもポイントが高い。

「はぁはぁ」

1分休憩で、次は縄跳び。

(ジャンプするのかよ)

タイミングよく飛ばないとロープに引っかかる。

「何してるロッキー!」

(難しいな、休憩が短いんだよ)

「はぁはぁ…」

縄跳びを終えると合計700$。

(結構溜まったな、大抵こういうのは…)

「どこへ行くロッキー」

ジムの中にそれらしい人物を探す。
カウンターの男がいらっしゃいと言った。

(ここか。やっぱり、ポイントと交換でアイテムを手に入れるんだな)

ボクシンググローブ(赤)3000$
ボクシンググローブ(黒)3500$
ボクシンググローブ(星条旗)7000$

(へえ、ポイントを貯めてキャラをカスタマイズするのか)

ボクシングトランクス(青)2500$
ボクシングトランクス(黒)2800$
ボクシングシューズ(白)4500$
ボクシングシューズ(赤)5000$
伝説のボクシンググローブ(赤)30000$

(お…ポイントが高いヤツだと強そうだな、攻撃力アップとか?)

他にもまだまだアイテムはあるが、鍵のマークが付いている。おそらくチュートリアルをクリアするかストーリーを進めないと解放されないタイプだろう。

ビタミンドリンク100$
フランクフルト50$

(お、これいいじゃん)

とVR機器を付けたまま、俺はさっきコンビニで買った物を手探りで探す。

(あったあった…)

そして、肉まんを食いながらコーラを飲み、同じようにアイテムを使う。

(本当に食ってるみてえだな)

我ながら面白い事を思いついたと笑ってしまう。

「ゴクッゴクッ」

(飲んでる時の喉の音までリアルだな)

「おい!俺とスパーリングしようぜ」

ジム生に声を掛けられた。
ゴツい黒人だ。

(ははあ、ここからは試合に向けてのチュートリアルか)

(ジムの仲間とスパーリングして、ガードとかパンチの避け方とか覚えていくんだな)

「始めは打たせてやるぜ、ロッキー」

(手の動きに合わせて色んなパンチを出せるのかな、例えばフックとか)

ドゴッ!!

大男が顔を歪める。

「やりやがったな!」

(おお、たまんねえ)

(本当のボクサーになったみてえだな)

バスッッ!!

(VR…こいつぁ、いい買い物したな)

「クソッ…今度は俺の番だ」

(お、次はガードのチュートリアルかな)

(ガードとかは覚えるのめんどくさそうだけど、ずっとパンチ打ってると体力消耗とかあるだろうし…)

(まあこういうゲームは大抵ずっと連打でも勝てる様には…)

ボーッとしていた。
ゲームの攻略を考えていたせいだ。

バキィッ!

(痛っ)

(……痛い?)

(いやそんな筈ねえか)

バスッッ!!

(え…やっぱり痛い)

(錯覚してるだけか、本当に殴られるわけじゃない。リアル過ぎてそう感じるだけか)

ドゴッ!!

(ダメだ、やっぱり痛えマジで)

(もしかしてダメージ機能とか付いてるのか?)

(だとしたらすげえ技術だな)

「おら、どうしたロッキー!」

バゴォォォッッッ!!!

「!!」

(……………)

「あーあ、ノビちまいましたぜ、どうします?」
「明日は試合だってのに…」

(あれ、俺どうしたんだ?)

(目の前が真っ暗に…)

(ああ、何か気持ちいいな…このまま寝ちまうか、VRに酔ってんのかな、目を閉じてこのまま…)

(………)




「!?」
「目が覚めたかロッキー」
「?」
「支度は済んでる、もう試合だぞ」
「え」

(俺寝てたのか…ゲームは進んで?)

体にはグローブとトランクスを着けていた。
リングにはマッチョの男がいる。
コイツが対戦相手らしい。

「ドラゴはボディーアッパーが得意だ、気をつけろ」

(え、ドラゴってロッキー4の敵キャラだよな)

(ストーリー通りなら1からだろ?)

(あれ…俺どれくらい寝てたんだっけ?)

「ボディーに気をつけろ、それから…」

カーーーン!

(ええっと何するんだっけ?)

「ゴング鳴ったぞロッキー!」
「え…」

ドゴッ!

「痛え」

俺は鋭いパンチで一気にコーナーへ吹っ飛ばされた。

(ま…また痛え、しかも吹っ飛ばされた)

「こんな技術あるかよ、このゲーム壊れてんじゃねえの?」

ドムッッッッ!!

「はうっ…」
「ボディーに気をつけろと言ったろ!」

腹への衝撃。

(いやいやいや…)

(おかしいだろ、腹に機械は付けてない)

「どうしたロッキー手を出せ!」

(いやこんな痛えのに動けねえって…)

(もういいや、このゲーム。ちょっとサイトで攻略見よ、クレームが多い評価とかかもしれないし…)

「!?」

とVRの機器を外そうとするが、

(!!)

(無い!!)

顔に当たるのはグローブを付けた手だけ、そう湿った革の匂いがするだけだ。

(え、無い…これ俺の顔、あれ)

(VRは?)

「試合中に顔を触ってどうした?髪型が気になるのか」
「え、ええ…ちょ」
「気にするな、今からその顔ボコボコにしてやるからよ」

(ほ…本物?)

ドゴッ!!

「はうっ」
「ロッキーダウン!」
「立てロッキー」

(ええ!?)

(ちょっと待てよ、俺はバイトの帰りにゲーム屋に行ってVR付けて、それで…)

マットの臭い、歓声と罵声、リングを照らす照明。シューズが床をこする足音、目の前の対戦相手の影。呼吸、鼓動、手足の感覚。

(そんな筈ない…けど本当に?)

(ゲームだろ…ゲームだよな)

バキィィ!!
ドゴォォォッッ!!

立ち上がるとさらに連続パンチ。
鼻からは血の臭い。さらにえずく胃液の臭い。

(おげええ…)

(苦しい苦しい)

(ゲームだろうが、現実だろうが、痛えし苦しい)

「オエッ、オゲエエエッ!!」

(何で腹殴られて痛えんだよ、ゲームだろ?)

(口ん中切れた、吐きそうだ…こんなのVRじゃねえ)

(いや、そもそも痛えならゲームじゃねえ)

「どうしたロッキー?」

ドラゴが見下ろしている。

「立て、まだ楽しませろ」
「う、うう…」

(落ち着け、これはただのゲームなんだ)

(これは試合じゃない、ゲームで…上手く操作すれば勝てるようになってる)

「ふう…はぁはぁ」

俺は立ち上がり、拳を構えた。

バスッッッ!!
ドゴッッッ!!

(み…見えな…)

ドムッッッッ!!

「はううううううっ!」

(む…無理だ)

目の前にいるのは本物のボクサー。本物のパンチ。攻撃防御全てが敵わない。

(に…逃げよう)

「!?」

リングから出ようとすると、見えない壁に当たる。そこから先の空間は存在しないかの様に体が押し返されるのだ。
ゲームエリアから離れています、とでも言われてる様だった。

(現実…だけどゲームの世界?)

(ゲームの中で…現実の世界?)

頭が混乱してくる。
一つだけ確かな事は、

「どこへ行くんだ、来いよロッキー」

この地獄から抜けられないという事。

「ぁ…ぁ…」

そう言えば、さっきからダウンしてもカウントも無い。レフェリーすらいない。時間の制限も無い。
つまり殴られ続ける無制限勝負。
勝てば終わるのか、負けは存在するのか、VR空間を永久に彷徨うのか。

「はぁはぁ…」

(現実のボクサーも同じか、クリアも無い、ゲームオーバーも無い)

(リング上で闘い続けているだけ)

ドゴッ!!
ズムムッッ!!
ドボオオオオッッ!!

俺の名はロッキー・バルボア。
イタリアの種馬と呼ばれ、何の取り柄も無い。
ただのしがないボクサーだ。

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